『もう一度・・・後編』
「この娘じゃ」
それから暫くたった、ある日の真夜中。自分のマンションでファンから貰った手紙を整理していたわしは、驚きの声をあげた。
「何で忘れてたんかのう、こんなに手紙をくれてたのに」
手紙に添えられた写真の中で笑うのは、この間わしに傘を貸してくれたあの娘。ちゃんじゃった。
<○○聞きました〜>
<雑誌のインタビューの感想です>
<晴一さん、誕生日おめでとう>
便箋に踊る文字は、ポルノグラフィティへの愛情とメンバーを思いやる優しさに溢れていた。
あの日迷いの中にいたわしに、傘を貸してくれたように。
(あの娘は、どう思うんじゃろ。タマの脱退を……)
しばらく写真の中で笑うちゃんを見つめていたわしは、慌てていつも持ち歩いているノートを広げた。
言葉が、溢れて来た。
わしらを愛してくれるファン達に向けた言葉が。
「また、手紙が来るじゃろうか……」
溢れ出した言葉を全て文字に変え、わしはノートにちゃんの住所を書き留めた。
傘のお礼をするために。
そしてもう一度写真を眺めてから、きちんとファイルに仕舞いこんだ。
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「凄いのう、皆の反応は」
レコーディングの合間にファンクラブ宛に届けられた手紙を読みながら、昭仁は苦笑した。
タマの脱退を公表して一ヶ月になるが、手紙やBBSの書き込みが絶えることはない。
「晴一。お前最近、何か変じゃ」
手紙を読み終えBBSに目を通していたわしを見て、昭仁は怪訝そうな顔をした。
「あぁ?わしはいつもと変わらんよ」
今日書き込まれた全てのメッセージに目を通し、パソコンを閉じて。
わしは昭仁を振り返った。
「さっき手紙を見てた時も、今も。いつもと顔が違ったんよ。何て言ったらいいんかのぅ……」
昭仁は浮かばない言葉に苛立っているらしく、眉間に深い皺を寄せている。
「捜し物が見つからんような、落ち着かん顔してる」
「捜し物……」
わしは昭仁の言葉を繰り返し、首を捻った。
自分が何を捜しているのかさえ、わからない。
だけど言われてみれば、たしかにわしは何かを捜していた。
手紙の中に、BBSの書き込みの中に。
「まぁ、そのうち見つかるじゃろう」
悩むわしを尻目に、昭仁はそう言って笑う。
この間までの落ち込みが信じられんほど、昭仁の表情は明るい。
「だいぶ、ふっ切れたのう」
笑う昭仁の横顔を見ていたわしは、安堵の笑みを浮かべる。
一時の凄まじい落ち込みを思い出すと、今の昭仁の状態は奇跡に近い。
「まぁ、な。晴一が赤い傘を持ってうちに来た日、あったじゃろ?あの日に決めたんじゃ、
新しいポルノグラフィティのヴォーカリストとしてやって行くことを」
昭仁は照れくさそうに笑い、わしから視線を逸らした。
「そういうことか……」
昭仁の言葉で捜し物に気付いたわしは、手紙の束に目を落とした。
あの日、救われたのは昭仁だけじゃない。
わしも、救われたんじゃ。ちゃんに―。
「何が、そういうことなんじゃ?」
手紙の束を凝視していたわしの顔を除く昭仁に首を降り、わしはノートを広げた。
言葉が、溢れてきた。
ただ一人、ちゃんだけに向けた言葉が。
<元気ですか?あの日は傘をありがとう。今でも、わしらを愛してくれていますか?
また泣きそうに見えたら、赤い日傘を差し向けてくれますか?
この場所からちゃんは遠くて、わしには貴女の笑顔が見えません>
一字一字、心を込めて。
わしはちゃんへの手紙を書き始める。
ファンの子に手紙を書かなくなってから随分たつからか、思うように言葉が出て来ない。
<今でも、ちゃんがわしらを愛してくれてるのなら。また、手紙を下さい。
貴女からの手紙を待っています。ポルノグラフィティ新藤晴一>
稚拙な言葉だけが並ぶ手紙を再読もせずにノートから破り、わしは丁寧に折り畳んだ。
「やっぱり、今日の晴一は変じゃ」
昭仁が首を傾げてスタジオを出ると、わしは奥の方に控えていたマネージャーを振り返った。
「わし、ちょっとコンビニに行って来るわ」
返事を待たずにスタジオを出ると、外は闇の中じゃった。
腕の時計の時刻は午前一時を回っていて、街には酒の匂いが立ち込めている。
「こんなんしか売ってないんやのう……」
最寄のコンビニの文房具コーナーを隅から隅まで見終えても、そこには白い花が描いてある封筒があるだけで他の柄はなかった。
わしは悩んだ末に白い花の封筒を手に取り、レジに向かう。
「後、80円切手を一枚」
「はい、少々お待ち下さい」
お金を支払い、店員から封筒と切手が入ったビニール袋を受け取って。
わしは、レコーディングスタジオへの道を逆戻りし始める。
(読んでくれるかのう……)
家に帰ったら住所を書いて、ポストに投函して。
ちゃんからの手紙を待つつもりだ。
「遅かったのう、晴一」
そんなことを考えるながらスタジオに戻ったわしを、不機嫌そうな昭仁が出迎えてくれる。
「早く次の曲、録りたかったのに。お前がおらんから…」
「あぁ…、わかった。すまん、いこうか」
わしは買ってきた物をしまうと、昭仁と一緒にレコーディングブースへと続く扉を開けた。
夜が明ける前に、レコーディングを終わらせてしまいたいのは皆同じ気持ちだ。
「ところで、何を買いに行ったんじゃ?」
「秘密」
わしはにやりと笑い、昭仁の肩を叩いた。
この手紙に返事が来たら、教えてやってもいい。
でもそれまでは、わしだけの秘密にしておきたかった。
「感じ悪いのぅ……」
昭仁はむっとしたまま、レコーディング準備を始める。
わしも愛用のギターを手に取り、軽く鳴らす。
「準備いいか?」
ギターを構えると、すうっと気持ちが切り替わる。
新藤晴一から、ポルノグラフィティのギタリストへと。
「うん」
昭仁はマイクを持ち、頷いた。
そしてスタジオには、音が溢れる……。
わしらがポルノグラフィティを続ける限り、わしらの周りには音が溢れていくだろう。
そしてその音を愛してくれるファンからの声援を糧に、わしらはまた前に進んで行く。
だから…。
また、手紙を下さい。
貴女からの手紙を待っています。
fine.
原案:類瀬 幸則様 050326 UP05/06/06
★待ちに待っていた後編をUPしました。いかがでしたか?はこれを読んで幸せ感じました。作者様のコメントはバックステージに
載せたいと思いますので、ご期待下さい。ファンコールも、待ってます!本人様に責任を持って伝えます。