『もう一度・・・』前編
「また来てね〜」
賑やかなお姉さん達に見送られて店を出ると、街はネオンがやかましいくらいに輝いていた。
うまい酒を飲んで、綺麗なお姉さん達と会話して。
そんなわしの至福の時間を邪魔したのは、耳慣れた携帯の音じゃった。
「話があるけぇ、今から来れん?」
まだ弱弱しい感じの残る昭仁の声。
まだショックから立ち直れとらんらしく、最近はちょっとした事で電話が来る事も多い。
「もう、いい加減に立ち直れ・・・」
アスファルトを見ながらそう呟き、わしは人波に紛れ込む。
ずっと長いこと一緒にポルノグラフィティをやってたタマが、脱退したいと言ってから。
昭仁は一人で悩んでいるらしく、情緒不安定になってしまった。
何度も何度も話し合って、わしと昭仁で活動を続ける選択をした後も。
昭仁の悩みは晴れないままだ。
「〜、これからどうする?」
「ん〜、帰るにはまだ早いよね」
思案にくれたままタクシーを拾おうと表通りに出ると、前方から若い女の子が並んで歩いてくる。
その姿にライヴ会場に来てくれるファンの子達の面影が重なり、すれ違う瞬間にわしは思わず目を閉じた。
ファンの子達は、タマが抜けた後もわしらを支持してくれるのか、それとも・・・。
そんな考えが、ぐるぐると頭の中を回る。
「泣いてるんですか?」
その時、優しい声が聞こえてきてわしは目を開けた。
さっきすれ違った女の子が、心配そうにわしを見上げている。
「あ、あぁ。大丈夫じゃから」
いい大人が、女の子に心配かけるなんて恥ずかしい。
わしは引きつりそうな笑みを浮かべ、女の子と視線を合わせた。
「・・・はい」
わしの目を見て何を思ったのか、女の子は手に持っていた赤い傘を広げて差し出してくる。
雨が降っているわけでもないのに。
「何で?」
「泣いても見えないように。
晴一さん、泣きそうな顔してるから」
女の子はそう言うと、にこりと微笑む。
その笑みには何故か見覚えがあったけれど、どこで会ったかまでは思い出せない。
けどわしの名前を知っているなら、きっとファンの子じゃろう。
「あのな。わしらが、これからどう変わっていっても・・・
今までのわしらを、ポルノグラフィティを愛してくれるか?」
口を突いて出た言葉に、彼女よりわしが驚く。
自分の中に巣くっていた不安感の大きさに、わしは今更気が付いた。
「もちろん、愛してます」
女の子は頷き、傘を差し出してまた微笑する。
その笑みに促されるようにわしは彼女から傘を受け取り、雨も降っていないのに傘を差す。
「雨も降らんのに、おかしのぅ」
「じゃあ日傘にすれば・・・」
「アホ。今は夜じゃ」
傘の中でわしと女の子は言葉を交わし、笑い合う。
彼女のようにわしらを愛してくれるファンがいる以上、立ち止まるわけにはいかない。
「〜!」
「あ、呼んでる」
女の子は苦笑してわしに手を振ると、人込みの中に駆け出して行った。
ありがとうを言う間もなく。
(君がこれからもわしらを愛してくれるように、頑張るからのぅ)
わしは傘を差したまま街を歩いた。
さっき会った女の子の笑顔をまた見たいと思った。
そして何より、昭仁に早く会いたかった。
ポルノグラフィティを愛してくれる人達にわしらが出来るのは、最高の曲を作る以外にない。
そんな事を考えながら歩くうちに、昭仁の住むマンションの前に着いていた。
「昭仁、もう悩んだってしょうがないじゃろ。やるしかない、わしらの音楽を」
「それはそうじゃけど・・・
晴れてるのに何で傘差して来たんじゃ?」
チャイムと共ち出て来た昭仁はわしが持っている赤い傘を見つめ、不思議そうな顔をした。
「あぁ、これはな・・・・・日傘じゃ」
女の子の真似をして答えると、昭仁はぷっと吹き出す。
「夜に日傘なんて・・・」
タマが抜けてからしばらくぶりで見る、昭仁の屈託のない笑みに安堵しながら、わしもつられるように笑った。
To Be Continued・・・
原案 2005/01/04 類瀬 幸則様 up 2005/03/12
★☆類瀬様ありがとうございます。続きが楽しみです。バックステージもご覧下さいね。By.ラッキーガール